思うこと。

日々思うことを思うままに話したい。

⑤新潟

しかし新潟は、新潟に行く!と思って行った訳ではない。新潟とは思ってなかったけれど新潟だった、と言う所に行った。行った先は斑尾高原で、だから長野とセットなのだけど、長野は数え切れないほど行ってるから、ともかく「実は新潟」だった所だけの話にしよう。

斑尾高原の中の、そのペンションには何度も行った。斑尾高原自体は長野の住所だから、そのペンションも郵便物で言えば長野県で始まる宛先なのだけど、実際は新潟に位置しているらしい。そもそもは夫(群馬の話で出てきた好きだった人に紹介された教会、に通っているうちに知り合って結婚した夫)がスキー同好会に入っていた学生時代に、冬になると居候をしていた先のひとつで、スキーシーズンにはふたりで、あるいは家族で、あるいは会社ぐるみで、何度も行ったけれど、夏に一度だけ行ったことがあるから、その話にしよう。

就職して3年目だったと思う、毎日忙しくて、その上頻繁にデートもしていて、とにかく毎日睡眠不足だった。夏休みはどこに行こうか、何がしたいか、と考えたらとにかく休みたかった。結婚して子どもが生まれて、の後の暮らしに比べると何でもない程度の忙しさだったのだけど、笑、その時の自分としては、とても忙しくてくたくただった、訳だ。

スキーではすでに何度か行っていたけれど、夏に行くのは初めてで、雪のない斑尾高原はとても新鮮だった。個人的には、ほんとうに何もせずただぼーっとペンションで過ごしているので充分だったけれど、夫(当時は彼氏)はそういうタチではないし、ペンションの人にも、何かしに行かないと!とせき立てられ、致し方なくなんだかんだ出かけて過ごした。レンタサイクルもした。が、ウソみたいだけど私は自転車に乗れないから、ウソみたいだけど2人乗り自転車を借りた。アニメみたいね、笑。何のアニメか知らないけど。いわゆるお盆の時期ではない時に休みを取ったのか、どこもとても空いていて(バブル期だから夏の信州は賑わっていたはずだ)少し離れた湖まで、のんびり出かけた記憶がある。たぶん、のんびりしてたのは私で、夫は2人乗り自転車を一生懸命こいでくれてたと思うけど。私もこぐわって言ったものの、何しろ乗ったことがないから、ペダルに足を付けておくこともできず、夫のこぐ速さに合わせることもできず、もういいから足上げときーと言われ、おそらくペダルは放棄してたと思う。盛夏すぎの日差し、涼しい風、ひょろひょろ伸びる道沿いの草、アスファルトの道、山あいというほどでもなく、平地でもなく、そんな道を延々と進んだ。行った先の湖がどんなだったか、そこで何かをしたのか、お弁当でも持って行ったのか、まるで覚えてないけれど、けらけら笑って、笑うと力が抜けると夫がまた笑って、とても静かな何でもない道の景色というか、匂いというか、そんなものとか、ふざけてもたれた時のポロシャツの肌触りとか、覚えているのか知らず捏造したものか分からないけれど、思い出す。思い出すことに捏造された部分があってもいいと思う。そうであればいいと願ったことか、こうならよかっただろうと、事実かどうか分からないけれど願うことか、いずれにしても自分にとってそれが、より都合のいい記憶ならそれでいいじゃないか。

ゲレンデにも行った。もちろん雪はなく草の生い茂るゲレンデは、なんというかすっぴん、みたいだった。ここ、ゲレンデだよ、と夫が言ってもまるでぴんと来ず、あっちがなんちゃら、この向こうがなんちゃら、と冬に滑ったゲレンデの名前を説明してくれても白いゲレンデとはまるで別物で、リフトの支柱だけが確かにここはゲレンデだと思わせる。膝上あたりまで伸びる草むらのあちこちに小さな花が咲き、信州の夏は優しい。このゲレンデは間違いなく長野だろうと思う、新潟の話のはずだけど、笑。小さなアスレチックも作られていて、一度してみたかった、ロープにぶら下がって滑って行くやつをしたと思う。

新潟に位置するペンションでは、いつものように食事をして、初めてテラスでお酒を飲んだかな。坂道に建っているそのペンションのテラスは、冬には雪に埋もれるから、それまでは見たことなかったんだと納得したような気がする。こういう自然の中に行くと、夜には必ず星を見ることにしてるから、おそらくこの時も暗い道をもっと暗い所目指して歩いて行ったのだろう。おぼろげな記憶から言えば、より新潟方面に向かって歩いて行ったはずだ。新潟で星を見た。

この時は長距離バスで行った旅で、帰りはまだずいぶん陽の高いうちに出発した。ペンションが併設している食堂で、夫が居候していた時の友達が働いていて、バスで食べるようにとお弁当を渡してくれた。帰りのバスはがらがらで、別にけんかもしていなかったけれど別々の席に広々と座りお弁当を食べた。お弁当パックに、その友達がおかしな絵を描いてくれて、みんなでげらげら笑った。そんなことがあったよね、と夫に今言えば、何でもよく覚えてるなあと半ばあきれて感心されるだろうな。そんなことがあったよね、覚えてないでしょう、でもあったよ。おかしな豚の絵を見てみんなで笑ったよ。

それが新潟のおしまいの場面。